第2部 グラビアスクリーン
6.太平洋ケーブル
あまりぱっとしない切手ですが、この切手は明瞭なスクリーン角度バラエティが存在することで有名です。高倍率のルーペさえあれば、どんな初心者でも一見で、それらを分類することができるでしょう。安い切手ですから、ぜひ実物を探してみてください。以下に示す2種のバラエティは、どちらかが珍しいということはありません。ちょっと探しただけで両方を揃えることができるはずです。
上の2枚の切手の中央部を拡大してみると、下のようになります。この拡大画像を見れば、両者の違いは一目瞭然でしょう。赤紫のスクリーン角度が、上側の切手では75度、下側は23度です。この赤紫色のスクリーンは、黄色と重なっている部分(少し違う色に見えます)では一般に、きわめて鮮明に観察できます。
赤紫75度
赤紫23度
しかし、なぜこのようなバラエティが存在するのでしょうか。特に人気のあった切手でもないので、あとから追加製造されたとは思えません。「たいえびす」や「アジア大会」の項で書いたように、当初の数量を刷り上げる作業の中で2種の版が使われたのでしょう。印刷所の都合で複数の印刷機が並行して使われ、両者で何かの手違いでスクリーン角度をセットし間違えたとか、印刷中にたまたま実用版が壊れて作り直したのが違う角度だった、といったあたりではないかと思われます。
これら2種のスクリーンの切手は色調が違っている、と書いてある文献もあります。しかし筆者にはそのような違いがあるとは思えません。冒頭の2枚の切手は、どちらが23度であるか、おわかりになりますか?(左の方です)
なお上の画像を見ると、赤紫以外にも黄色のスクリーン角度が、両者で少し違っているような気がします。あまり明瞭ではないので、確信は持てませんが...。
◆追記
当初の記事ではこの2つの角度を22度/78度と書いていました。2020年刊行の拙著『製造面から見た書状10円期の記念特殊切手』でもそのように記載しましたが、これは古い文献に記載されていた数値をそのまま転記したものであり、自身で測定した結果ではありませんでした。改めて精密に測定して得た23度/75度をV日専に記載しました。黄色の角度はどちらも54度で、違いはないようです。
上の拡大画像も改めて測定し直すと、下側の方は「22度と23度のどちらにより近いか」という判断の問題になりますが、上側の方は78度からかなりずれていることがわかります。拙著の表紙に載っている図も、分度器をあててみると78度とは言いがたいですね。お恥ずかしい限りです。