東京特印 S21.12.15（非初日）
名 品・迷 品 C （7）
２０１１．０７．２４
郵便75年小型シート非初日消し
近年では小型シートの「丸ごと使用済」を作るのがはやりですが、古い時代の小型シートでは、ごく限られた人たちが作った「作品」が残されているに過ぎません。そんな例を紹介いたしましょう。
東京特印 S21.12.15（非初日）
郵便75年記念切手
戦後初の記念切手が、この郵便75年記念です。戦前記念切手の発行形態を引き継ぎ、国内あて葉書・封書、外国あて葉書・封書の基本料金に合わせた4種セットで発行された上に、その4種の切手を収めた小型シートまで発行されました。戦争で荒廃した当時のわが国において、記念切手を買う余裕のある人など、ほんの一握りに過ぎなかったはずです。しかし発行された4種の記念切手は、当時の粗末な普通切手とは比べ物にならない、重厚な仕上がりの凹版印刷で登場しました。
小型シート
この小型シートは、発行数がわずか5万枚余ということもあり、切手ブームが去った昨今でもさすがに高価です。そんなに気安く買えるものではありません。そもそも額面合計１円85銭に対して3円で売られたなどといったあたりからして、一部の裕福な収集家のためのものであったと言うことができましょう。
余談ですが、この小型シートには初版(注)という希品があります。カタログには「記念文字が黒ずんで盛り上がっているのが初版」と書いてありますが、ときたま切手展などで現物を見るときも、明確にはそれと認識できないことが少なくありません。「黒ずんで」という特徴は、実は決定的なものでもないようです。2004年秋には、この初版風特徴をもつ再版シート(？)が、ジャパンスタンプを通して販売されたのを記憶しています(筆者は買いませんでした)。
再版の小型シートは、橙色部分と他の3色部分とを2回に分けて印刷したため、これらの間に位置ズレが生じているのが普通です。4色を一度に印刷した初版では、このようなことは絶対に起こりえません。ここに示した画像の小型シートでは、30・50銭・１円切手が橙色の部分に対して少し左にずれているので、確信を持って再版と断定できます(残念)。
(注)
初版・再版という言い方は適切でないという主張もあります。日専では第1次印刷・第2次印刷という用語が使われています。
非初日消しの小型シート
高価ではあっても、未使用の小型シートは、簡単に入手することができます。他人のコレクションとの違いを少しでも際立たせるには、使用済がほしいところです。それもまっすぐにきれいに押された初日印では、面白味がありません。ぜひ非初日の実逓使用済を加えたいものです。切り取り使用済やカバーが加われば、さらに素晴らしいコレクションになります。
筆者のコレクションはそのような理想から程遠いものですが、そんな中でこの画像の小型シートだけはちょっとばかり(ちょっと だけですが)自慢できるものです。押された消印が、特印ではありますが、初日印でない点がポイントです。昭和21年12月15日は、発行から数えて4日目になります。4個の特印ですべての切手が消印されていること、しかも4個の特印の傾きが少しずつ異なっている点も、この小型シートを実逓風に見せています。記念押印品では、１個しか押されていないのが普通です。実逓品ではこの小型シートのように、１円85銭分の郵便料金を納めた証拠として、貼られているすべての切手に押印するのが原則です。
本当は記念押印なのかも知れませんが、単に１枚の切手にかけて初日特印を１個だけきれいに記念押印したものとは違う味わいがあります。養殖物と天然物の違いとでも言いましょうか。ただし(貼られていたはずの)台紙との間で割印状態になっている消印が１個もないのは残念です。使用済切手をあとから貼りつけたのではないことを証明するために、消印(の少なくとも１つ)は封筒との間で割印にするのが、今も昔も実逓便を消印するときの原則です。ただしその規則は厳密に守られているわけでもありません。その点には目をつぶってしまいましょう。
本当に実逓ものだとしたら．．．
それにしても、一般の人が差し出した郵便に貼られていたなどという可能性はゼロです。こんな大型の小型シート(変な言い方ですね)を使うはずがありません。収集家が(用もないのに？)収友に送った大型の書留速達便(料金2円30銭程度)に、なにがしかの普通切手とともに貼って、局の窓口で特印を押して発送したもらったものからはがした使用済、．．．．といったあたりでしょうか。そういうことにしてしまいましょう(でもやはり、そのように似せて作った記念押印品なのでしょうね)。それでもわざわざ4個の消印を傾けて押して実逓風に見せかけるセンスのあった収集家には、最大限の敬意を払いたいものです。ということで、この部屋に招待することにしました。